第51回受賞作品と受賞者コメント
準入賞・佳作該当者には、賞状並びに副賞がそれぞれ授与されます。

- 「実相」 中條 ルネ
何を切り取り、どこに視点を置くのか。たったそれだけで、伝わり方も印象も大きく変わってしまいます。 本作は「原爆報道」を題材にしていますが、調べるほどに、誰の立場で世界を見るのか。迷いに迷い、何度も何度も立ち止まりました。 今でもこれが正解だったのか。大きな歴史のうねりの中で生きた人々の思いを、葛藤を、自分は掬い取れたのだろうか──。ずっと自問しています。
そんな中、拙い部分も多い中で拝読いただいた皆様に、そしてこのように評価していただいたことに、心より御礼申し上げます。また、ここまで支えてくれた方々にも深く感謝いたします。
これからも、伝えるという行為の重さを忘れずに、一つ一つの言葉を大切に、真摯に向き合っていきます。ありがとうございました。

- 「かほはゆし!」 宮崎 和彦
- この度は昨年の佳作に引き続きまして、準入賞に選出していただきまして誠にありがとうございました。
本作は明治維新で男たちは丁髷を散切り頭にしたにもかかわらず、女たちは重たく不便な結髪を変えることが許されなかった時代に、長髪を切って新しい髪型を模索した女髪結いの物語になります。
調査を進めていくうちに自分の構想と史実がどんどん離れていき、さすがに歴史改変はまずいと考えたときがありましたが、私の中のタランティーノ兄貴が「ヤッチマイナァ!」と叫んだことで、こうなったら徹底的にヤッてやろうとチャンバラもぶち込んでエンターティメントとして楽しめる脚本を目指しました。
ここ一年で脚本家としての状況は何も変わらず、今年も受賞しただけで終わるのかと今も不安ばかりつのっていますが、「お元気ですか。私は元気です」「バカヤロー。まだ始まっちゃいねぇよ」と映画の声が聞こえる限りまだまだ戦ってやろうかと思います。

- 「生きている」 籔下 雷太
- 歴史ある城戸賞で、準入賞に選んで頂き、大変光栄に思います。
この物語は、ある夜、睡眠中に何の前触れもなく突然心臓が止まったという自分自身の体験がベースになっています。
事故、事件、病気等、突然の死は誰にでも起こり得ます。準備の出来ていない突然の死は周囲に残す傷が大きく、ショッキングで、その影響がドラマチックでもあるため小説やドラマ、映画などでも悲劇的に描かれてきました。
しかし、いざ自分が死にかけてみて、「自分の死がこの世に残すものが悲しみだけだとしたら自分の生とは一体何なのだろうか?」という思いが生まれました。人の数だけ生があるように、死の形もさまざまであるならば、死の持つ悲劇的なイメージを少しだけ変えるような物語を作る事は出来ないか。
そんな思いでこのシナリオを書きました。
映画化に向けて動いて行きたいと思っていますので、どこかで見かけたら応援して下さい!

- 「サラブレッドのしあわせ」 宇部 道路
歴史ある城戸賞にて佳作を賜ることができ、心から嬉しく光栄に存じます。脚本を読み選出いただいたすべての方々に深く感謝申し上げます。
本作は競走馬と生きる人々が抱える様々な感情と葛藤の物語です。執筆の源は、かつて暮らした北海道で出会った人々との思い出。彼ら彼女たちの輝かしい“みらい”を願う気持ちを込めて書きました。
『もののけ姫』で映画館デビューしたのが3歳のとき。幼少期から映画が大好きで、高校の文化祭では友人たちと自主SF映画を制作し、大学では映画をテーマに卒論を書いた身としては、「映画の日」の式典で関係者の皆さまの前に立たせていただいたことが、まずなによりも望外の喜びでございました。
これまではただ憧れだった映画界。ようやく一歩、踏み入れるチャンスをいただけたと受け止め、これからは少しでもいい脚本を書き物語を紡げるよう、自分自身の“みらい”への祈りを込めて精進していきたいと思います。

- 「わたしはお母さんの娘でお母さんはわたしの娘」
秦 雅心 この度は城戸賞佳作に選出いただき、誠にありがとうございました。
中学の頃まで、私は妹のため、リカちゃんの人形劇を自宅で毎日のように上演していました。その場で考えた名前や展開を、次の日も妹が覚えてくれていた時はとても驚き、心の中で飛び上がるほど嬉しかったです。思えば、その頃に感じていた喜びが、いまの自分の脚本執筆と映画に対する「好き」に繋がっている気がします。
この作品も、妹の一言から着想を得ました。母にひどく反抗的だった私にとって、母に対して母性に近い愛を含んだ妹のその一言は、稲妻のように私の心に残りました。 誰かを愛したことがありながら、後悔が残ったことがあるすべての人に、少しでも寄り添いたい。そんな願いを、この作品の登場人物たちに託しました。 最後に、拙作を読んでくださった全ての方に心より感謝を申し上げます。 本作に残る未熟さと反省を活かし、今後より多くの方の心に響く作品を書けるよう、真摯に精進してまいります。